「坊や、おててを片方お出し。」
母さんぎつねは、子ぎつねの手をしばらく握りました。
すると どうでしょう。かわいい人間の子どもの手になったではありませんか。
「これは人間の手よ。いいかい坊や、町へ行たらね、たくさん人間の家があるからね。 まず、表に黒いシルクハットの看板のかかっている家を探すんだよ。
そうしたらね、トントンと戸をたたいて、『こんばんは』って言うんだよ。そうするとね、中から人間が、少うし戸を開けるからね。
その戸のすき間から、こっちの手、ほら、この人間の手を差し入れてね、『この手にちょうどいい手ぶくろちょうだい。』って言うんだよ。
分かったね、決してこっちのおててを出しちゃだめよ。」
「どうして。」
「人間はね、相手がきつねだと分かると、手ぶくろを売ってくれないんだよ。それどころか、つかまえておりの中へ入れちゃうんだよ。人間って、ほんとに恐ろしいものなんだよ。」
「ふーうん。」
「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ。こっちのほう、ほら、人間の手のほうを差し出すんだよ。」
母さんぎつねは、持ってきたお金を、人間の手のほうへ握らせてやりました。