「坊や、おててを片方お出し。」

母さんぎつねは、子ぎつねの手をしばらく握りました。 

すると どうでしょうかわいい人間の子どもの手になったではありませんか。

「これは人間の手よ。いいかい坊や、町へ行たらね、たくさん人間の家があるからね。 まず、表に黒いシルクハットの看板のかかっている家を探すんだよ。 

そうしたらね、トントンと戸をたたいて、『こんばんは』って言うんだよ。そうするとね、中から人間が、
少うし戸を開けるからね。

その戸のすき間から、こっちの手、
ほら、この人間の手を差し入れてね、『この手にちょうどいい手ぶくろちょうだい。』って言うんだよ。

分かったね、決してこっちのおててを出しちゃだめよ。

「どうして。」

「人間はね、相手がきつねだと分かると、手ぶくろを売ってくれないんだよ。それどころか、つかまえておりの中へ入れちゃうんだよ。人間って、ほんとに恐ろしいものなんだよ。」

「ふーうん。」

「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ。こっちのほう、ほら、人間の手のほうを差し出すんだよ。」

母さんぎつねは、持ってきたお金を、人間の手のほうへ握らせてやりました。

てぶくろを買いに8
作:新美 南吉 絵・音声:亀崎小学校PTA図書部



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